岡崎宏司の考察と結論
ジャガーブランドとは? その2
昨年、フルモデルチェンジしたXKはモダンになった。とくにサイドとリアは新しい。
かつてのジャガーのような「手工芸品的味わい」こそもうないが、シャープな造形とメリハリある陰影、そして精度感の高い造りこみは、今という時代の要求を満たしている。

ただし、新旧が中途半端に同居している印象の顔はよくない。もっと思い切りよくモダンな顔立ちにしていたら、新型XKのインパクトはずっと強いものになっていただろう。
コクピットも伝統を守りつつモダン化しているが、ここでもまた新旧が中途半端に交じり合っている印象であり、このクラスとしては贅沢さという面でも物足りない。
ジャガーといえば、トリムパネルは「ウォールナット」と決め込んでいる人は多いはずだが、全体にシンプルなデザインの新型XKには、アルミがいちばん合っていると思う。
「貴族的」云々といった表現はもう旧いかもしれないが、ジャガーXKには依然そんな佇まいがあり薫りがあり、不思議な魅力がありオーラがある。

だから着こなすのはけっこう難しい。
で、どんな人が着こなせるのかと考えていて、ふと思い当たったのが「岸田一郎」。
ピタッとサイズのクラシコ・チェックJKTに、黒のタートルネックとデニム……そんな出で立ちで、明るいブルーメタリック辺りのXKコンバーチブルを転がす……これはきっと決まる。しかし、「20年前にサビルロウでオーダーした」ツイードのジャケットは、旧XKには馴染んだかもしれないが、新型XKには馴染まない。
アルミボディのもたらす硬質な感触は独特だが、しっかりしたボディと、軽快なフットワークによる乗り味は上質。コンバーチブルでは19インチの、クーペでは20インチのタイヤを履いても乗り心地に粗さは出ない。
エンジンは4.2l・V8でATは6速。
動力性能はこのクラスでは標準的レベルだが、発進時のグイッとくる瞬発感の演出はちょっとやりすぎで、品位を落としている。
ハンドリングは最上の部類に入る。ステアリングは 微舵域から正確に効き、ワインディングロードも爽やかに、軽快にハイアベレージで駆け抜ける。グリップレベルも高いしスタビリティレベルも高い。ブレーキの能力には不満が残るが、新型XKの走り味/乗り味には高い点がつく。
ジャガーのフットワークには「しなやか」という表現がよく使われるが、新型XKにはどことなくウェットなイメージのあるしなやかという表現より、ドライなイメージのある「軽快」という表現の方が適切だろう。
現在のジャガー・サルーンの中で、「スポーツサルーン」の呼び名にいちばん馴染むルックスの持ち主はSタイプだろう。プロポーションもスポーティだし、そこそこモダンさもある。ところが、キャビンに入るとそんな印象はかき消されてしまう。Sタイプのインテリアは旧い。加えて、質感の面でもライバルたちに遅れを取っている。
Sタイプのインテリアがもう少し斬新で質感が高かったら、全体の魅力も評価もかなり押し上げられたと思う。そんな意味では、トリムにアルミを使い、モダンなイメージの2トーンのスポーツシートを組み込んだ「R」が、もっとも新しい雰囲気を持っている。
「R」のエンジンは4.2l・V8のスーパーチャージャー付で、豪快な加速はなかなかのものだ。フットワークもいいし、硬めの感触ながら粗さのない乗り心地もいい。
Sタイプ-Rには、旧さと新しさ、繊細さとマッチョさが混在した……ちょっと不思議な印象があるが、そんな点も含めて、ジャガー・サルーンの中ではいちばん目立つし、「キャラの立った」存在でもある。
しかし、上記したようにSタイプは来年フルモデルチェンジされる。きっと、すごくモダンでクールな姿に変る。「旧い」というジャガーのイメージを一気に覆すような姿になるはずだし、トレンディなエリアでもひときわ目立つ存在にもなるはずだ。
今でもジャガーファンであり続けている私としては、次期Sタイプが、今の厳しい状況を救う救世主のようなクルマであることを切に祈る。ロスアンゼルスや、パリや、ミラノで、トレンディな男たち女たちが競って乗るようなジャガーの姿を、なんとしても見たいと思っている。
(『@ZINO』2007年掲載記事)



1940年東京生まれ。日本大学芸術学部放送学科卒業。文化的側面からクルマを斬る自動車評論家。輸入車がレアだった45年以上前に、「旅行に行くから」と言って借りた、父のノーマルのベンツでラリーに出場し、優勝したという、やんちゃな過去も。



